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せきをしても一人 漂泊の旅 尾崎放哉

懸賞 2006年 09月 16日 懸賞


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「咳(せき)をしても 一人」
俳人・尾崎放哉は各地を放浪の末、瀬戸内海の小豆島で亡くなった。

尾崎放哉は、旧制一高、東大を出たエリートである。
保険会社の要職を酒で失敗をくりかえした。
漂泊の旅を続け、たどり着いたのが小豆島だった。
ここで暮らした8ヶ月の間に3000もの句を残している。

壺井栄の「二十四の瞳」の分教場を訪ねたあと、足をのばして放哉の終焉の地を辿った。
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片岡鶴太郎は 放哉の句をもとに書画集
「いれものがない 両手でうける」の著作
そのまえがきでこう書いている。

「放哉の句は、
説明もなく、尾ひれもない。
見たことを見たまま、感じたまま、
簡素に言っている。

無駄なことをひたすらそぎとって、そぎとって、
決して言い過ぎることがない。
こいつはすごいなあ。
私も同じように 絵を描いていきたいなあ」と。

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ねそべつて書いて居る手紙を鶏に覗かれるせきをしても一人 漂泊の旅 尾崎放哉_c0053543_23111054.jpg

犬よちぎれる程尾をふってくれる

春の山のうしろから烟が出だした

障子あけて置く海も暮れ切る

足のうら洗えば白くなる

入れものがない両手で受ける

咳をしても一人

こんなよい月を一人で見て寝る

一日物云はず蝶の影さす

たつた一人になりきつて夕空
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高浪打ちかへす砂浜に一人を投げ出す

障子しめきつて淋しさをみたす

淋しいぞ一人五本のゆびを開いて見る

とんぼが淋しい机にとまりに来てくれた

いつしかついて来た犬と浜辺に居る
 
ここから浪音きこえぬほどの海の青さの

淋しい寝る本がない


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吉村昭さんの「海も暮れきる」を読んだ。
ここを訊ねてみたいと思った。

「海も暮れきる」は、放哉が小豆島の南郷庵に住み着いて一人悲しみの死を迎えるまでを
みごとに描いている。
読み進むうちに、辛くなったり、ほっとしたり。
胸の中をぐっと熱いものが流れ出す。 

句は素晴らしいのだが
酒を飲むと、人格ががらっと変わってしまう。酒乱である。
もし放哉がわが友人であったらどうかなと考えてしまう。

放哉が暮らした当時の雰囲気を伝える記念館の
裏山にひろがる共同墓地。

大空放哉居士の墓は、高台の上のほうにあった。
周辺には建物がいくつも建ち、いまはもう海は見えない。
西光寺の塔が低い街なかにひときわ高く見える。

酒をこよなく愛した放哉の墓に、手持ちカップの酒をかけた。
今も全国の俳句愛好者が足を運ぶと聞いている。
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7月31日 作家の吉村昭さんが亡くなった。

報道によれば、その死は無用な治療を拒み
自ら死を選ぶ尊厳死そのものだったと。

彼も立派だが、彼の意思を尊重したご家族も
さぞ、つらかったこととお察しいたします。

痛々しくて多くを語りませんが
まさに彼の作品「海も暮れきる」のなかに
その姿を感じました。

彼の作品の片鱗に触れたくて
旅した小豆島でした。

 「死を 真っ直ぐに見つめることは 
生を考えることでもあります」

吉村昭さんが亡くなってしまって、とても残念に思っています。
御冥福をお祈りします。


「 さよなら なんべんも言って わかれる 」

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by hanehenID | 2006-09-16 10:47 | 小豆島の旅

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