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こだわりの味 

懸賞 2005年 05月 31日 懸賞


10年ひと昔というが、ふた昔まえ、
あの頃は世の中は、まだゆったり流れていた。


越路吹雪のシャンソン「ばら色の人生」を聞きながら、
琥珀色(こはくいろ)を愉しみながらコーヒーを飲み、
忙中閑ありで、想いにふけったものである。
そこから詩がうまれ、短歌や俳句もうまれた。

最近はうまいコーヒーを飲ませる店がめっきり少なくなった。


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「昭和」のある時期、コーヒー1杯飲むのでもこだわりがあった。
「珈琲道」(コーヒー道)ということばがあった。
客にそれなりのこだわりがあるとすれば、
コーヒー屋の親父は一杯のコーヒーを入れるにも、
それ以上に職人的こだわりをもつ時代だった。


職人は、音楽、絵画にも、文学にも深い造詣を持ち、
客人と会話を持つ、ホンモノのプロフエナッショナルだった。


ネルの袋に入れたたっぷり目のコーヒーの粉。
沸騰した湯をゆっくり一滴一滴コーヒーの上から注ぐ。
コーヒーのアワがもくもく盛り上がってくる。
コーヒーの香りが周りいっぱいに広がった。



一杯50円。ほぼこの金額が日本全国どこへ行っても通り相場だった。


仕事がおわり、書店で本をのぞき、
気に入った本が手に入ると、
うきうきと一刻も早く本に目を通したい思いで、
喫茶店に立ち寄ることが多かった。

独りでモノを考えたり、
本を読んだりするには
静かで気兼ねなく過ごせた。


店内には、大声で話す客もなく、
わたしと同じように静かに本の活字に目をやる人や
原稿用紙にペンを走らせる人、
腕を組んで目を閉じ瞑想するひとなど
そこには独特な空気が漂っていて、まったくひとりになれた。
SP盤のレコードで
エディットピアフの「バラ色の人生」や
シャルル・トレネの「ラ・メール」
とか
シャンソンを聴かせる喫茶店、
ラテンやタンゴ、ジャズの専門喫茶もあったのだが、
シャボン玉のように都会の街かどからいつの間にか消えていた。

それはまさに、フイルムカメラがデジタルカメラに、
レコードがCDやDVDにいれ変わっていったように。

移り変りの激しいこの世の中に身を寄せる
ほんとうの男の居場所がなくなっていった。

こだわりの味 _c0053543_23112775.jpg

by hanehenID | 2005-05-31 22:46 | 街 あるき

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